書評☆4 公共IoT | 多数の調査データに基づく公共IoTシステムのモデル案

概要

日本総研のシニアマネージャー,スペシャリストといったその道の専門コンサルタントにより書かれた公共IoTに関する本となっている。

書籍の構成は大きく3部構成となっていた。

  1. IoTやSociety 5.0の経緯,政府や国際動向
  2. 公共IoT: Society 5.0の地域モデル
  3. 公共IoTの実現プロセス

全体的に内容が調査結果に基づいており,根拠がしっかりしていてとてもよかった。

まず,第1部で世界や日本政府のIoT化,Society 5.0がどういう流れで来たのかが手短にまとまっている。国際的に直面している課題やグローバル企業の動向などが書かれており,参考になった。

そして,第2部。ここがこの本で大部分を示している重要な部分だ。ここが100ページほど費やされており,書籍の1/2程度を占めている。公共分野にIoTを導入することを提案している。具体的に,何が問題で,何を解決し,どういうシステム構成でいくのか,よく書かれている。問題点に関してはきちんとデータを使っており,論理的だった。

そして,最後に公共IoTを実現する上で,民間と政府がどう協力していくかなどが書かれていた。

まず,最初の導入部分でSociety 5.0がいつどういう経緯で登場してきており,何を狙っているのかが,政府公開資料を元に書かれており,詳しくてよかった。この時点でこの本がいい本だとわかった。

第2部の公共IoTモデルは,扱う分野が公共ということで,直接関り合いのある人は少ないかもしれない。しかし,IoTの適用モデルとして,しっかりと考えられており,参考になると感じた。

参考

p. 17: Society5.0の現状

Society5.0を政策的な言葉として初めて位置づけたのは、2016年1月に閣議決定された「第5期科学技術基本計画」である。


Society5.0には、狩猟社会(Societyl.O)、農耕社会(Society2.0)、工業社会(Society3.0)、情報社会(Society4.0)に続く新たな社会を生み出す変革を科学技術イノベーションが先導する、という意味が込められている。第5期計画は、Society5.0を「必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細かに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といった様々な違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会」と定義している。

近年言葉を見かけるSociety5.0についてまとめられており参考になった。

p. 34: 求められる生活環境づくりのAI/IoT政策

AIIloTの時代に地方が付加価値を高めるために必要なのは、地方に豊富に存在している資源に着目することである。それは、地方における生活環境である。本書が提案するのは、AIIloTを駆使した生活環境づくりである。しかも、その対象を地方部において誰もが恩恵を受ける公共インフラを中心とするのである。ここで言うのは、道路や橋のようなハードなインフラだけでなく、教育、医療のようなソフトな分野も含む広い意味での社会インフラである(図2-2)。

こうしたインフラがAI/loTによって付加価値を高めれば、地域住民の生活の付加価値が高まり、それが地方独自の社会の活力につながる。また、広い意味でのインフラは住民生活と密接に絡み合っているので、住民生活の付加価値が高まればインフラ、公共サービスの付加価値も高まる、という好循環が生まれる。

公共IoT投資の意義が書かれており参考になった。

p. 36: AI/loTによる次世代の成長モデル

ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスが1983年に創業したグラミン銀行は、貧困層を相手に無担保・無審査での貸付を行い、98%もの高い回収率を誇った。その成功の要因としてされてきたのが、貸付する人に5人組を組成させ、グループ単位で貸付(グループローン)を行ったことだ。

シェアリングエコノミーの原理がわかった。

結論

Society5.0の経緯や,グローバルなIoT/AIの動向,さらに公共IoT投資への意義が書かれていた。具体的な公共IoTのモデルが書かれており,IoTシステムを開発する上で非常に参考になると感じた。

全体的に,政府調査結果をベースにデータを使って,論理的に説明されている。これだけの調査はさすがコンサルタントといったところで,一般人には手が届かない。

全体のページ数は170ページほどと,決して多くはない。しかし,専門家の調査・報告内容がぎゅっと詰められている。手元に置いておきたいと思える一冊だった。

パーマリンク: https://book.senooken.jp/post/2019/02/01/

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