書評☆3 日・米・中 IoT最終戦争 | シャープ買収劇は鴻海のほうこそ生き残りに必死

概要

産業タイムズ社代表取締役であり,半導体分野の記者の第一人者とみえる著者による,2017年付近のIoT関係の動きとその展望を解説した書籍となっている。

アメリカ・中国・日本のIoTをめぐる市場の動き,ソニー・東芝,センサー企業群,次世代自動車,ロボットなどIoTに関して後半に展望を解説している。

特に,東芝の不正会計やシャープの買収など日本企業のネガティブな印象を受ける報道がここ数年で連続している。しかし,まだまだ希望は持てそうな内容だった。

メディアで報道される内容と違った視点もあり参考になった。

参考

p. 32: IoTの3のポイント

IoTのポイントは、大きく3つある。第1は、人を介在させない、または人間の力を使わないこと。第2は、あらゆるものがネットワークで直接的に繋がること。そして第3は、フルカスタムの世界であるということだ。これらの3点がすべて達成されて、初めてIoTと呼べるのである。

IoTの特徴はいろいろ意見が出ているが,一つの参考になった。

p. 42: IoTマーケットは自動車を凌ぐ360兆円規模に

アメリカのサーバーシステム最大手シスコシステムズは、約900兆円のマーケットになると予測している。

世界でもっとも大きな産業はエネルギーで、1300兆円。内訳は石油が600兆円、石炭が200兆円、天然ガスが300兆円、原発が200兆円となっている。2番目は医療で560兆円、3番目は食品で360兆円4番目は自動車で300兆円、5番目はエレクトロニクスで150兆円と続く。

いずれにしても、共通しているのは社会インフラであるということだ。

その中でIoTが900兆円になるとは、とても考えられない。筆者の見立てによれば、360兆円程度が妥当であるだろう。

世界の産業勢力図がわかった。ただし,文献の引用がないのが残念だ。

p. 71: アメリカの弱みは「ファブレス」だ

ところがIoTの時代になると、国際分業はこれまでのようには通用しなくなる。前述の通りパーツがカスタム化され、何百万種類に作り分ける必要があるからだ。ノーブランドの精算請負であるファンドリ企業やサブコン企業では、これには対応できないのである。

逆に求められるのは、垂直統合だ。1社または1つの系列企業群で、1つ1つデバイスから最終製品まで作りこむような世界である。言うまでもなく、そうなれば日本企業の出番だろう。


余談ながら、一方で対応に苦慮しそうなのが台湾などのファウンドリ、サブコン企業だ。これを象徴する出来事が、鴻海精密工業によるシャープ買収劇である。日本のメディアは「シャープの凋落」「台湾企業の軍門に降った」「無能な経営陣」といったネガティブな報道に終止したが、これは本質を見誤っている。鴻海のほうこそ、生き残りに必死なのである。

すでに鴻海は成長のピークを迎えつつあり、得意の電子機器組立も頭打ちとなっている。


だからシャープの買収に多くの望みを託したわけだ。

同社は今後、「シャープ」のブランドを前面に出し、液晶ディスプレイや家電などで勝負をかけようとするだろう。しかし、所詮は下請け専業であり、大量生産・集中生産を得意とするノーブランド企業なので、IoTの時代まで活躍し続けることはできない。時代に取り残されるのは確実である。

IoT時代はフルカスタムの時代になるので,それにあったチームが有利となる。シャープ買収劇は自分もネガティブな印象を持っていたが,別の視点がえられてよかった。

p. 74: 中国がフラッシュメモリーで仕掛けるチキンレース

中国が仕掛けようとしているのは、チキンレースである。そうすれば必ず勝てるという経験則があるからだ。その第一弾は太陽電池。ほんの10年ほど前までは、その生産量も販売量もシェアトップは日本だった。

ところがその後,中国は莫大な国費を投じて100社もの太陽電池メーカーを設立。低コスト・低価格を武器に、日本とドイツのメーカーを叩き潰すことが目的だ。その結果、今では中国が太陽電池に置いて世界の72 %シェアをもっている。目的は見事に果たしたわけだ。

ただし,この話にはいかにも中国らしいオチがある。当初設立された100社の太陽電池メーカーの内、多くは既に倒産、残る会社もかなりが赤字を計上している。


それはともかく、中国が仕掛けたチキンレースは、太陽電池だけではない。LED照明でもいつの間にか世界一のシェアを持ち、今は液晶でもトップを狙っている。


もちろん、台湾・韓国のメーカーもこういう自体を予測している。例えばサムスン電子は、有機ELの生産に傾注し、今や世界の市場をほぼ独占している。大きな差はあるが、2位の韓国のLG電子だ。有機ELは液晶の次に主流になるといわれているパネルで、もともとは日本で開発されたものである。この一点を捉えて、日本のメディアは「韓国に横取りされた」「日本メーカーは大きく水を開けられた」といった報道に終止している。

しかしこの見方は間違っている。サムスン電子にしろLG電子にしろ、有機ELにしか行き場がなかった、という見方が正しい。中国に液晶の市場を叩き壊されることは明白なので、別の分野に活路を見い出すしかなかったのである。

東アジアの電子メーカーの戦略がわかった。

結論

この分野に精通している著者による,著者にしか書けないような内容が多かった。

そのため,今後IoTをめぐる企業間の競争がどういう流れになっているのか,どうなっていくのか一つの視点としてよかった。

パーマリンク: https://book.senooken.jp/post/2018/10/26/

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