概要
IT契約に詳しい弁護士によるIT契約でよくトラブルになる項目に関する解説書となっている。
賠償責任や工程ごとの契約などITベンダーが用意してくる契約書に対して,どこに注意すればいいかが解説されていた。
全体的に,ユーザー企業の視点に立った契約の考え方が多かった。
ITの仕事をしており,どちらかというとベンダーの視点を知りたかった。あるいは,いわゆるSESでよく耳にする準委任契約の話をもっと知りたかった。
経済産業省のモデル契約の存在を知れたのが大きかった。
参考
p. 19:「適用」「準用」
法律に記されている特定の条文を、 事案に当てはめることを「適用Jという。
これに対して「準用Jとは、 ある事項に対する法律の規定を、 本来とは異なる 場合に適用する場合に、 一部の文言を読み替えるなどして当てはめることを指す。 準用の代表例が、 システム開発の契約でよく用いられる「準委任」だ。「委任J は法律行為を委託する契約形態、「準委任jは法律行為でない事務を委任する場 合の契約形態である。
準委任契約の「準」の意味がわかった。
p. 63: 準委任でもITベンダーは完成責任を負う
第9章でも説明するが、 民法の準委任には、 事務処理の労務に対して報酬が支払われる「履行割合型」と、 事務処理の結果として達成された成果に対して報酬が支払われる「成果完成型」がある。
学習塾講師の講義は「履行割合型」の例だが、システム開発における要件定義などは「成果完成型」の典型だ。システム開発の各工程では、次の工程のインプットとして用いるために、要件定義書などの成果物の作成をITベンダーに委託している。成果物を完成させることが個別契約の目的であり、委託料の支払いの前提となっていることは明らかだ。「準委任は、成果物の完成責任を負わないJという誤解の原因は、「準委任は履行割合型だけ」という誤った捉え方にある。
実際にはシステム開発契約における準委任は、実態に照らせば基本的には全て成果完成型であり、請負と大きな違いはないというのが正しい理解だ(図5・3)。
準委任契約だから,完成の義務はないとよくいわれるが,そうではないことがわかった。もう少しここは調べる必要がありそうだ。
p. 126: 準委任での支払い条件は二つ
しかし、準委任に成果完成型があることは、現行法に明文規定がないために、誤解が生じやすい。そこで今回の改正では、準委任における報酬の支払いについて、「履行割合型」と「成果完成型」の二つのパターンが明記されるようになった(図9・5)
成果完成型に関する規定は、改正法の「第648条の2Jで追加される(図9・6)0I委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において、その成果が引き渡しを要するときは、報酬は、その成果と引き替えに支払わなければならない」という規定である
具体的な条文が引用されており,参考になった。
p. 267: 経済産業省 策定・公表「情報システム・モデル取引・契約書」
本書で紹介したモデル契約書(経済産業省が2007年4月に策定・公表した「モデル取引・契約書〈第一版>J)の条項部分を抜粋したものを参考資料として掲載する。
経済産業省のWebサイト (http://www.meti.go.jp/policy/it_policyIkeiyaku/)からは、モデル取引・契約書を策定した「情報システムの信頼性向上のための取引慣行・契約に関する研究会Jの報告書や解説つきの契約書をダウンロードできる。実際に活用する場合は、経済産業省がWebサイトで公表しているマスターファイルをダウンロードしてほしい。
経済産業省のモデル契約書のURLが示されていた。
結論
ユーザー企業目線でIT契約の勘所がまとめられていた。
個人的には,ITベンダー目線,その他SESに関する契約の話を詳しく知りたかったので,物足りなかった。
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