概要
- 書名: 嫌われる勇気
- 副題: 自己啓発の源流「アドラー」の教え
- 著者: 岸見 一郎 and 古賀 史健
- 出版: 2013-12-12
- 読了: 2020-04-04 Sat
- 評価: ☆4
- URL: book.senooken.jp/post/2020/04/16/
評価
人気の本ということで興味を持って読んだ。
世界3大心理学としてフロイト,ユングとともにあげられるアドラー心理学を解説している本だ。
悩みを持つ青年と哲人の2名の対話形式で話が進んでいく。青年の懐疑心は読者の疑問を代弁しており,少々手厳しいように感じたが,それをきっちり説き伏せていった。ある意味,アドラー心理学に対しての自信があるからできる形式だった。
対話形式であるため,具体例も数多く例示されていたため,内容を理解しやすかった。
「人を動かす」で有名なデール・カーネギーにも影響を与えた心理学ということで,期待しながら読んだが,期待通りの本だった。
それなりに量があり,内容を要約するのは少々難しい。目的論的で,共同体主義的な考え方がベースにあるように感じた。
今の自分を受け入れて (自己受容),他者と自分の課題を分離して,自分ができることに集中し,他者を信頼して横の関係を重視し,貢献感を獲得することが幸福への道という感じだった。
書名の「嫌われる勇気」というのも本文で解説されている。他者の評価を気にしてばかりいるのは,結局自己中心的であり,自由の欠如した貢献感しか得られない。自分と他人の課題を分離して,気にせず自分の集中することが大事という由来だった。
引用
p. 27: なぜ「人は変われる」なのか
ここではアドラー心理学が過去の「原因」ではなくいまの「目的」を考えるという特徴が説明されていた。
「不安だから、外に出られない」のではなく,「外に出たくないから、不安という感情をつくり出している」というのは,ありえるケースだ。
フロイトの原因論だとたしかに,過去のできごとで未来の全ても決まるという身も蓋もない考え方になってしまう。
p. 71: すべての悩みは「対人関係の悩み:である
ここではアドラーの「人間関係の悩みは、すべて対人関係の悩みである」という言葉が紹介されていた。極論そうなのかもしれない。
p. 80: 言い訳としての劣等コンプレックス
ここでは劣等感と劣等コンプレックスの違いについて説明されていた。劣等感自体は向上したいと思う状況であり,悪いものでもない。ただし,劣等感を言い訳に使い始めた状態を劣等コンプレックスと呼んでいる。AだからBできないというのはよくあることで,これが劣等コンプレックスであり,よくない状況だ。例えば,「学歴が低いから出世しない」などがそうだろう。
p. 95: 「お前の顔を気にしているのはお前だけ」
ここでは「対人関係の軸に「競争」があると、人は人間関係の悩みから逃れられず、不幸から逃れることができません。」という言葉が印象に残った。
この後に,人格攻撃された場合の話があり,「そもそも主張の正しさは、勝ち負けとは関係ありません。あなたが正しいと思うのなら、他の人がどんな意見であれ、そこで完結するべき話です。」という言葉印象になった。
自分が正しいと思ったら,そこで完結することにする。
p. 146: 対人関係の悩みを一気に解消する方法
ここではアドラー心理学の特徴の一つとして,承認欲求の否定と自分と他者の課題の分離という話が展開された。
他人の課題は他人がどうこうする話で気にする課題ではなく,自分の課題に集中し,それについて他者がどういう評価を下すかというのは他者の課題であり,自分にはどうにもできない話という話があった。
他人の評価をどうにかできないというのはたしかにそうだ。
p. 162: ほんとうの自由とはなにか
ここでは承認欲求と自由についての話があった。その中で,署名にもある「自由とは、他者から嫌われることである。」という言葉があった。
誰からも嫌われずに生きるということは,他者の評価を気に掛け生きることであり,結局それは自分中心の生き方になるという話だった。
p. 179: 対人関係のゴールは「共同体感覚」
ここで課題の分離は対人関係の出発点で,ゴールは共同体感覚というやりとりがあった。
共同体主義的な考え方があるのだなと感じた。
p. 182: なぜ「わたし」にしか関心がないのか
「じつは「課題の分離」ができておらず、承認欲求にとらわれている人もまた、きわめて自己中心的なのです。」このフレーズが印象的だった。
p. 195: 叱ってはいけない、ほめてもいけない
ほめるという行為には「能力のある人が、能力のない人に下す評価」という側面が含まれています。
まさに「ほめること」の背後にある上下関係、縦の関係を象徴しています。人が他者をほめるとき、その目的は「自分よりも能力の劣る相手を操作すること」なのです。そこには感謝も尊敬もありません。
誰かに褒められたいと願うこと。あるいは逆に、他者をほめてやろうとすること。これは対人関係全般を「縦の関係」としてとらえている証拠です。
アドラー心理学ではあらゆる「縦の関係」を否定し、すべての対人関係を「横の関係」とすることを提唱しています。ある意味ここは、アドラー心理学の根本原理だといえるでしょう。
そもそも劣等感とは、縦の関係の中から生じてくる意識です。
ここはアドラー心理学の根本的な部分だった。叱ったり褒めるという段階で縦の関係になるというのはたしかにそうだと思った。
縦の関係を回避するには,感謝や支援というのが重要になる。
p. 206: 自分には価値があると思えるために
ここでは自分に価値を感じて,勇気を持てるようになるためのポイントとして,「人は「わたしは共同体にとって有益なのだ」と思えたときにこそ、自らの価値を実感できる。」という言葉が印象的だった。
他者からの評価ではなく,自らの主観で思えること。これが重要なのだそうだ。家事に務める専業主婦なんかを考えるとこれが重要なのかもしれない。
p. 252: 人はいま、この瞬間から幸せになることができる
「幸福とは、貢献感である」というフレーズが登場した。自分に価値があると思えることの続きの話となっている。
承認欲求に基づく貢献感には自由がないともあった。
この貢献感を得るには,共同体感覚が必要で,自己受容,他者信頼,他者貢献が足りていないという話だった。
結論
自己啓発本らしく読んでいて前向きになる本だった。
青年の質問が読者の疑問を代弁しており,考え方がよくわかった。ただ,こういう対話形式だとあとで見返しにくいので,教科書のように図解されたものがあるといいなと感じた。
過去のことに縛られて,AだからBできないという考え方で,じたばたしている人にはうってつけの本だろうと感じた。
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